2014年07月21日

(民法)信義誠実の原則〜安全配慮義務





民法の第1条第2項には基本原則として次のような規定があります。


民法第1条第2項
権利の行使及び義務の履行は、信義に従い誠実に行わなければならない。




これは、権利の行使や義務の履行は、相手方の信頼を裏切ることなく、誠実に行わなければならないということですが、別の角度から表現すると、具体的な紛争が起きたときに、正義と公平を実現するために裁判所が使う道具とでもいうことができます。⇒契約や法規の解釈の指針となる存在



※信義誠実の原則は昭和22年の民法改正によって、初めて明文化されましたが、それ以前にも民法の指導原理として学説や判例では既に認められていました。



今回は、この信義誠実の原則から導かれる付随的義務としての安全配慮義務についての判例を一つご紹介いたします。



陸上自衛隊八戸車両整備工場事件(最判昭50年2月25日)


【事案】
陸上自衛隊員Aは、昭和40年7月に自衛隊八戸駐屯地の武器車両整備工場で車両を整備中に、同僚の自衛隊員Bが運転する大型自動車の後輪に頭部を轢かれ死亡した。Aの両親であるXらは、昭和44年10月、国を相手取り、自賠法3条の運行供用者責任に基づく損害賠償請求訴訟を提起した。



【判旨】
「国と国家公務員(以下「公務員」という。)との間における主要な義務として、法は、公務員が職務に専念すべき義務(国家公務員法101条1項前段、自衛隊法60条1項等)並びに法令及び上司の命令に従うべき義務(国家公務員法98条1項、自衛隊法56条、57条等)を負い、国がこれに対応して公務員に対し給与支払義務(国家公務員法62条、防衛庁職員給与法4条以下等)を負うことを定めているが、国の義務は右の給付義務にとどまらず、国は、公務員に対し、国が公務遂行のために設置すべき場所、施設もしくは器具等の設置管理又は公務員が国もしくは上司の指示のもとに遂行する公務の管理にあたつて、公務員の生命及び健康等を危険から保護するよう配慮すべき義務(以下「安全配慮義務」という。)を負つているものと解すべきである。」

「右のような安全配慮義務は、ある法律関係に基づいて特別な社会的接触の関係に入つた当事者間において、当該法律関係の付随義務として当事者の一方又は双方が相手方に対して信義則上負う義務として一般的に認められるべきものであつて、国と公務員との間においても別異に解すべき論拠はなく、公務員が前記の義務を安んじて誠実に履行するためには、国が、公務員に対し安全配慮義務を負い、これを尽くすことが必要不可欠であり、また、国家公務員法93条ないし95条及びこれに基づく国家公務員災害補償法並びに防衛庁職員給与法27条等の災害補償制度も国が公務員に対し安全配慮義務を負うことを当然の前提とし、この義務が尽くされたとしてもなお発生すべき公務災害に対処するために設けられたものと解されるからである。」

「会計法30条が金銭の給付を目的とする国の権利及び国に対する権利につき5年の消滅時効期間を定めたのは、国の権利義務を早期に決済する必要があるなど主として行政上の便宜を考慮したことに基づくものであるから、同条の5年の消滅時効期間の定めは、右のような行政上の便宜を考慮する必要がある金銭債権であつて他に時効期間につき特別の規定のないものについて適用されるものと解すべきである。そして、国が、公務員に対する安全配慮義務を解怠し違法に公務員の生命、健康等を侵害して損害を受けた公務員に対し損害賠償の義務を負う事態は、その発生が偶発的であつて多発するものとはいえないから、右義務につき前記のような行政上の便宜を考慮する必要はなく、また、国が義務者であつても、被害者に損害を賠償すべき関係は、公平の理念に基づき被害者に生じた損害の公正な填補を目的とする点において、私人相互間における損害賠償の関係とその目的性質を異にするものではないから、国に対する右損害賠償請求権の消滅時効期間は、会計法30条所定の5年と解すべきではなく、民法167条1項により10年と解すべきである。」





信義誠実の原則とは、本来、契約等から生じる中心的、本質的な権利行使・義務履行について当てはまる基本原則ですが、近年では、これを拡大し、とりわけ義務の履行に関しては、付随的な義務(保護義務)もこの信義誠実の原則を根拠に導かれるようになりました。




判例にもある「安全配慮義務」は、信義誠実の原則を根拠に付随的義務(保護義務)として、明文の規定こそないものの、判例理論として確立しています。




この判例では、安全配慮義務を「ある法律関係に基づいて特別な社会的接触の関係に入つた当事者間において、当該法律関係の付随義務として当事者の一方又は双方が相手方に対して信義則上負う義務」としています。そしてそれは、国と公務員の関係においても当てはまり、国は単に給与支払い義務にとどまるものではなく、その他に「公務員の生命及び健康等を危険から保護するよう配慮すべき義務」を負っているのだとしています。



国と公務員の関係のように特別な社会的接触関係に一旦入れば、公務員は国の指揮・命令に従わざるを得ないないから、それによって公務員が被る可能性のある生命・身体に対する危険を国は予め予測し、それを回避すべき義務を負っているのであり、それが信義誠実の内容なのだということです。そしてそれに違反すれば、損害賠償の責任も当然負わなければならないというわけです。



この安全配慮義務違反による損害賠償請求権の消滅時効期間については、行政上の便宜を考慮する必要のない事態であるから、会計法第30条の5年ではなく、民法の10年だとも判示しています。



会計法第30条
金銭の給付を目的とする国の権利で、時効に関し他の法律に規定がないものは、五年間これを行わないときは、時効に因り消滅する。国に対する権利で、金銭の給付を目的とするものについても、また同様とする。




民法第167条
債権は、十年間行使しないときは、消滅する





信義誠実の原則は、このように、法律の不備・欠陥を補充し、妥当な結論を導くことができるという点では大変意味のあるものですが、反面、裁判官の解釈次第でどのような結論でも導くこともできるという点では、法的安定性という面からデメリットがあるということもできます。












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posted by 行政書士試験WEBアドバイザー YASUHIRO at 01:31| Comment(0) | TrackBack(0) | (民法)基本原則 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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